『ストラヴァガンザ仮面の都』の世界を求めて

イタリアが好きなイギリスの作家メアリー・ホフマンさん。彼女の『ストラヴァガンザ仮面の都』という小説に魅了されて、私はベネチアを旅行しました。

この小説はベレッツァというベネチアにそっくりの都市が舞台です。物語に出てくる架空の街の地図は本物のベネチアと同じですが、ベレッツァには科学というものがなくて魔法が存在します。

現代のイギリスに暮らすルシアンはある日この架空の都市ベレッツァに空間移動してしまい、そこでベレッツァで生まれ育った女の子アリアンナと出会いました。

私は二人が見た世界を見たかったのですが、本物のベネチアは表面的には普通の観光地でした。けれどもよく見るとアリアンナとルシアンが行った教会や造船所が物語と同じ場所にあり、少し離れた島の描写もうりふたつでした。彼らが見ていたのと同じ風景を私も見ることができたのです。

アリアンナの父親が館長を勤めていた小さな島の博物館は今でも博物館になっていました。いえ、作者が実際の博物館を彼女の父の職場にしたのでしょう。この博物館を見ているとアリアンナという少女が本当に存在したかのような錯覚を覚えました。

彼女の祖父母が住んでいた色鮮やかな家が建つ島、ベレッツァの統治者の葬儀を一目見ようと人々が徹夜して場所取りをしたリアルト橋、ゴンドラ組合の建物だとされた建物。すべてをベネチアで見ることができて、ベネチアはまるで『ストラヴァガンザ仮面の都』のテーマパークのようでした。

ところで私は現代のイギリスに暮らすルシアンが両親とベネチア旅行をした時に泊まったホテルに宿泊しました。物語にはホテルの名前まで書いてありませんでしたが、水上バスを降りて広場を通りいくつかの橋を渡ったという地理的条件と、ホテルの前の道の名前から作者が選んだホテルを見つけ出しました。

帰国後にこの作者にファンレターを出して私のベネチア旅行の話を伝えたところ、ホテルに関して意外なことを教えてもらいました。私が見つけ出したルシアン家族の宿泊先は作者の考えていたホテルと違うのだそうです。あまりにも自信満々に私が彼女の選んだホテルのことを話したので、ホフマンさんは私の努力を気の毒に思って秘密を明かしてくれたのではと思っています。

もう一度ベネチアに行くことがあれば、今度こそルシアンが泊まったホテルを予約しようと思っています。